アイドルは小説より奇なり ~なないろから読み解くエビ中第二章~

【概要】

私立恵比寿中学がTHE FIRST TAKEで披露した楽曲「なないろ」の歌詞とエビ中の第2章について、僕が個人的に感じたことをまとめた。ダラダラしていたら公開から2か月以上経ってしまったが、同じ方向性でブログを書いている人が見当たらないので良しとしようと思う。

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先日、私立恵比寿中学はTHE FIRST TAKEに自身の楽曲「なないろ」で待望の出演を果たした。6人体制のメンバーがそろって行った最後のパフォーマンスである。悪性リンパ腫寛解した安本が活動復帰し、新メンバー加入後の9人体制の活動本格化を控えたタイミングだった。

 

 

6人体制のエビ中は“第2章”に区分けされており、THE FIRST TAKEでのパフォーマンスは第2章を締めくくる、正しく集大成だった。

僕は最初にこの動画を見たとき、「エビ中第2章のエンディングを見ているようだ」と思ったが、自分の感想になんだかしっくりこなかった。

 動画公開から2か月、ようやくピッタリの例えを見つけた。“最終回終盤の見せ場でオープニング曲が流れるあれ”だ。ドラマやアニメの最終回の良いところでオープニング曲が流れ、なんかいい感じになる“あれ”である。視聴者にこれまでの回を思い起こさせ、「いろいろあったけど、無事ハッピーエンドを迎えられて良かったね……」と思わせ感動を誘ってくる“あれ”である。エビ中ファミリーはみんなTHE FIRST TAKEの「なないろ」を聴いて涙したと思う。だってエビ中第2章の最終回を締めくくる最高の“あれ”だったから。

 

また、曲の成り立ちからしても、正に「なないろ」はエビ中第2章のオープニングであると思う。僕は、エビ中第2章を「なないろ」によって導かれた物語だと考えている。

 

「なないろ」は4thアルバム「ヱビクラシー」に収録されている。4thアルバムは8人体制時代に制作が始まっていたが、メンバーの松野莉奈が急逝。急遽仕切り直しとなった。そんな中で制作されたのが「なないろ」である。

 

作詞作曲はエビ中と交流のあったレキシの池田貴史氏。彼はこの曲を作るにあたって

 

エビ中達がここで止まっちゃいけない、前に進む曲にしたい

でも心のどこかで(この出来事を)忘れちゃいけない

この両極をポップに表わせる曲にしたい

 

と考えていたと語っている。苦心しながらも会心の出来になったそうだ。

 

 

 

ここからは「なないろ」の歌詞を僕なりに読み解いていく。僕はこの歌詞が大好きだ。聴くたびに新しい発見がある。そして過去に作られたものとは思えないほど、この曲はエビ中が歩んだ第2章そのものを表しているように感じる。池田氏の想いがエビ中を導いたのかもしれない。

 

前述のとおり、「なないろ」は松野への追悼とエビ中が悲しい出来事を乗り越え前に進めるように願いを込めた曲なのだ。しかし、「なないろ」は全編通してポップなメロディに女の子の恋心を乗せた恋愛ソングのように聞こえる。“キミ”の隣でドキドキしたり泣いたりしながら寄り添っていく、女の子の多様な心模様を虹の七色とかけて表現しているように聞こえる。巧妙すぎる。何なんだよ、池田氏バケモノかよ。もう怖いよ。

 

僕は「なないろ」を2部構成だと解釈している。

1番までがエビ中が悲しみと向き合うまで、2番以降が前に進み始めたエビ中である。

 

はじまりはキラキラ この恋はセブンカラー

止まらない気持ち キミが教えてくれた

 

はじまりはキラキラ 見上げたら青い空 

キミとまた手をつないだら 

止まらない恋は「なないろ」

 

この曲のメインは青空にかかる虹である。

松野(メンバーカラー:青)が見守る空の下で7人が想いを歌う。

 

はじまりはキラキラと流れる涙である。

キミから教えられた悲しみの気持ちの中にいる。

見上げたら青い空。雨が止んだ。

涙をぬぐって、キミへの想いを胸にエビ中は歩き始める。

 

ねぇ今キミが見てた

空の色は 何色ですか?

ねぇ今キミの横顔が 

涙でにじんだ どうしてかな?

隣にいるだけ ドキドキしてたこと 

気づかないふりして

 

  あなたのいるところから見える空は何色だろうか。想いを馳せて空を見上げれば、やっぱり悲しくなる。見ているのは横顔だ。正面から向き合うことはまだできない。

  でも、そんな気持ちに気が付かないふりをしてでも、前を向いて進んでいかなくてはいけないのだ。

 

 ここまでの詩で織り込まれた「恋」「ドキドキ」などのワードによって「なないろ」の恋愛ソングとしての側面が強調され、重たい主題がカモフラージュされている。全体から見たらほんの一部なのに。すごい。

 

はじまりはキラキラ この恋は「なないろ」

キミとまた笑いあって 

くだらない話しようよ

 

  感じた想いは7人それぞれ。いつか会うその日に笑いあえますように。メンバー同士で言い聞かせるような歌詞だ。

 

 

ようやく2番に突入する。

 

ねぇ今キミが口ずさんだ 
その歌の色は何色ですか?
ねぇ今も空を見ていた 
キミが笑った気がしたから
目と目があうだけで 
ドキドキしてたこと 
気づかないふりして

 

  2番ではキミに想いを馳せながらも、少し前向きになれたエビ中が描かれる。

  まだ感情は揺れ動くが、キミと目を合わせ向き合うことができている。

 

はじまりはキラキラ 走り出せ私から

止まらない気持ち キミが教えてくれた

 

はじまりはキラキラ 思い出は「なないろ」

好きな気持ちつながったら 

陽のあたる場所で待ってるよ

 

“思い出”は一番の“恋”と対になっている。恋は今まさに感じる気持ちの動きだが、思い出は過去の物だ。遂にエビ中は走り出した。

大切なキミへの気持ちを携えて、でももう涙は見せない。

 

“陽のあたる場所で待ってるよ”はエビ中と縁の深い池田氏ならではの歌詞だ。池田氏はテレビ番組で松野・柏木と共演経験があるが、2人は番組内限定で“ひなたでまつの”というユニットを組んでいた。「ひなたでまつの」→「陽のあたる場所で待ってるよ」である。この歌詞は本当にすごい。池田氏ならではの引用で、エビ中が悲しみを振り切る様を描いている。「アイドルとして大成した姿(陽のあたる場所)を松野に見せてほしい」という願いも込められていたかもしれない。池田氏、天才過ぎだろ、どうかしてるんじゃないか???

 

“私から”は一番の“セブンカラー”と韻で結び付いている。“私から”には「自発的に」という意味と「私色」≒「個性」の意味が内包されているのではないだろうか。「進め。自らの意思で、自らの道を」という願いだ。

 

悲しみを乗り越えた後の四年間は、エビ中にとってがむしゃらに自分の道を進む日々だったことだろう。

 

はじまりはキラキラ この恋はセブンカラー

止まらない気持ち キミに教えてあげる

 

はじまりはキラキラ 見上げたら青い空 

キミとまた手をつないだら 

止まらない恋は「なないろ」

 

キミへの想いは「なないろ」

 

冒頭の詩とほとんど同じだが、止まらない気持ちはキミに教えてあげるものになっている。何が違うのか。

 

恋:現在抱く感情 としたが、1番の時とはその内容が違う。

ここまででエビ中は大分前向きな気持ちになっている。キミとの思いでを胸に前へ進んでいくのだ。陽の当たる場所へ行くのだ。

SCHOOL OF LOCK! に出演した際に安本は「自分の人生を綴った小説を松野にプレゼントして『楽しい物語だったね!』と褒めてもらえるよう、再会するまで頑張って生きたい」という旨のことを言っていた。

尊いポイントが高すぎて1時間くらい語れそうだが、今回は置いておく。

 

”止まらない気持ち”は前に進んでいく、安本の言葉を借りるなら”物語”を綴っていく決意だ。だから”キミに教えてあげる”ものに変化している。この曲はエビ中が松野(青空)に想いを馳せながら物語(虹)を描くストーリーだったのだ。

 

止まらない気持ちの方向を変えるだけでここまで意味の違う詩になるとは。

個人的にはここの詩が一番すごいと思う。池田氏、鬼才である。

 

「止まらない気持ちキミに教えてあげる」の落ちサビ後、曲調が華やかになる。

また、ライブではメンバーが飛び跳ねる振りが入る。

曲、演出からもラスサビのエビ中は完全に前を向いて突っ走るエビ中が表現されている。

 

 

 

なないろリリースからエビ中のメンバーは着実に前へ進んでいる。

 

 

真山はもともとステージ上の大きなパフォーマンスが魅力の一つだったが、魅せるステージングが光るようになったと感じる。大人の女性らしい艶のある見せ方も増えた。力強い歌唱も魅力的だ。堂々としたステージングが本当にかっこいい。わりと歌詞を飛ばすが、それはきっと親近感を演出するための彼女の演出なのだろう。あとかわいい。

 

安本は元からひょうきんなキャラクターと安定感のある歌唱力が魅力だったが、歌唱の方向性が変わった。情感を強く出し、聴く者に訴えかけるような歌唱になった。フェイクなどの技も光る。真山を剛の使い手とすると、安本は柔の使い手という感じだ。SNSを始めてから女性らしい一面を目にすることが増えた。とてもかわいい。

 

星名は「360度どこから見てもアイドル」という自己紹介だけあって元から自身の魅せ方には定評があったが、より巧みになったように思う。ライブに行くと彼女が客席をよく見てパフォーマンスをしているのがわかり、その身振り手振りが自分に向けられたものなのではと錯覚してしまうほどだ。ファッション誌やSNSでの美容情報の発信など、女性をターゲットにした活躍も増えた。歌唱の方も安定感が増してきており、ハイトーンボイスが楽曲の中でいいアクセントになっている。ちなみにかわいい。

 

柏木は元から歌がうまかったが、最近は突き抜けて歌がうまい。番組やYouTubeでの露出も増え、パフォーマンスでグループを引っ張て行くのだという強い気持ちを感じる。笑顔がかわいい。悔しくて泣いちゃうところもかわいい。ストイックな彼女の姿勢には見ているこちらまで背中を押される。強くてかわいい。かわいいかわいいだ。

 

小林はつかみどころのないユルいキャラクターが魅力だが、最近は歌唱面でもその魅力が遺憾なく発揮されている。いい意味で力の抜けた歌声がいいアクセントになっている。飄々と高音パートを歌い切り、バラードでは柔らかい歌声で聴く者を包み込んでくる。ちゅうおん2018で彼女がカバーしたCharaの「やさしい気持ち」には度肝を抜かれた。あえて言うが、かわいい。

 

中山はトークなどを見ていると「人見知りで消極的な子」という印象を受けるのだが、ライブ中はとにかく一生懸命だ。彼女の場合は一生懸命さが個性となり、高く評価されている。近年は一生懸命さにより磨きがかかっている。彼女の歌は巧みではないが、人の心を惹きつける魅力がある。Youtubeのコメント欄でも彼女の虜になっている新規ファンを見かける。これは全員に言えることだが、彼女は特にライブ毎に歌がうまくなっているように感じる。毎回驚きがある。ダンスもとても上手だ。そしてかわいい。

 

以上、THE FIRST TAKE出演メンバーについて書き散らしてきたが、忘れてはいけないのが廣田の存在である。廣田は現在エビ中を卒業しているが、なないろは廣田も含めた7人への思いを込めて作られた曲だ。廣田無くして虹は成立しない。

廣田はメンバー内で最もタレントだった。自己プロデュース能力が高くキャラクターが立っており、芸達者で趣味を活かした一人の仕事も多かった。在籍当時一番目立っていたメンバーは間違いなく廣田だ。

松野の死をきっかけに前に進んでいこうと決めた廣田の目指したものはエビ中に収まるものではなかったのだろう。現在はYouTuberとして活躍する廣田だが、彼女の色が出た魅力的なチャンネルになっていると思う。かくいう僕は、廣田がYoutubeでおすすめしていた美容クリームを愛用している一人だ。

 

廣田の卒業後やグループとの関係性についてはいろいろな意見・情報が散見されるが、個人的には廣田の中には未だエビ中・松野への想いがあるように思う。松野の御両親がInstagramの投稿に欠かさずいいねをつけている廣田を見ていると、悪しき過去として切り捨てているとは考えづらい。願わくば、今も同じ空を見上げて虹を描いていて欲しい。

 

エビ中は新たなメンバーが加入し9人で活動を続けていく。

新メンバーが入ったエビ中がなないろを歌う姿が想像できないというファンの声を目にするが、僕は別に問題ないと思う。なないろの物語に登場人物が増えただけのことだ。きっともっと楽しいお話になるだろう。

 

いつの日かみんなで素敵ななないろの物語をキミ教えてあげられるといいなと思う。